2013年3月7日木曜日

「チェルノブイリ立入禁止区域での森林火災、煙の放出と放射性物質の拡散」の抜粋和訳 

この研究論文「チェルノブイリ立入禁止区域での森林火災、煙の放出と放射性物質の拡散」は、2009年出版の書籍「野生地の火災と大気汚染:環境科学の発達8」内の森林火災一般についての研究論文の一部である。環境ジャーナリストの山本節子さんが講演で言及されていた論文である。http://www.palge.com/news/h25/2/20130222kouen.htm

先日の福島県広野町での森林火災に伴い、放射能汚染区域での森林火災に対しての知識をつける事が重要だと思ったので、抜粋和訳してツイッター発信したものを改訂してここにまとめた。

出典

Wildland fires and air pollution. Developments in Environmental Science 8.「野生地の火災と大気汚染:環境科学の発達8」http://www.treesearch.fs.fed.us/pubs/contents/34227

Vegetation fires, smoke emissions, and dispersion of radionuclides in the Chernobyl Exclusion Zone 「チェルノブイリ立入禁止区域での森林火災、煙の放出と放射性物質の拡散」http://t.co/bm2vdAMHAe

森林火災についての一般的な情報は、下記のサイトに詳しく載っている。

「森林火災とその防止」資料:林業技術ハンドブック(森林総合研究所 後藤義明氏) http://t.co/hiS0KRa94y

***

チェルノブイリ立入禁止区域の面積は2600 km2(26万ヘクタール)であり、70%がオウシュウアカマツが主な寒帯森林で、30%が農地である。事故後に放射能汚染のために森林火災対策が行なわれなかったので、オウシュウアカマツが過剰になり、害虫や病気で蝕まれやすくなった。

森林火災対策がされなかったために、草木が成長し過ぎ、火事が起こりやすくなった。1992年には12000ヘクタールが焼かれたので、見張り台や偵察機での火災監視が始まった。この火災監視と効率的な消火活動により、大火事は防ぐ事ができた。2005年には36ヘクタールのみが焼かれた。

チェルノブイリ立入禁止区域での森林火災の消防は成功していたが、予算不足に加えて汚染木材が利用できないことから、積極的な森林対策を実行して森の中での火災燃料を減らす事ができなかった。森の中で木が密集していると下層植生が育たず、森の地表は落葉がほとんどである。

この燃料構成では、火災の際の火炎の長さが比較的短い状態で地表に留まり、極度な天候下でない限り、大きな樹冠火に移行しない。しかし、成木が枯れて日光が地表に届くようになると、小さな若木や陰樹が育つようになる。この森林遷移プロセスは、地表でのはしご型燃料を増やし、大きな樹冠火のリスクの増加に繋がる。

チェルノブイリ立入禁止区域には特に火災を起こしやすい場所がある。森林対策が限られているために過剰になったオウシュウアカマツはストレス下にあり、 害虫や病気の影響を受けやすくなっている。マイマイガが繁殖して根を腐らせ、400ヘクタール地域を含む多くの木を枯らせた。

このように害虫に蝕まれた森は非常に火事を起こしやすい。1995年の火事で多くの木が燃え落ちたが、このような状況では樹冠にスペースが開き、日光が地表に届くようになり、若木などの下層植生の新燃料ができる。地表の草木と大きな枯れた木は、火事が樹冠まで到達する道筋を作る。

このため、チェルノブイリ立入禁止区域での森林火事は、時と共にさらに大きくなり、火炎の長さが増し、火災時間も長まり、煙の量も増えることになる。2002年12月時点での表面土のセシウム137濃度は図に示されており、事故当時の風向きに沿っている。 http://t.co/9ICbvcBntw

 

チェルノブイリでの大気中放射性物質ストロンチウム90、セシウム137と、プルトニウム238とプルトニウム239+240は、2つの主な形態で存在しているが、これは煙の粒子とミネラルダストである。

工事や強風が、汚染土からダストを起こす主な原因である。ダスト粒子は普通大きく(直径2−100 μm、平均10 μmほど)、元の場所近くにまた落ちる。反面、森林や草地の火事は、0.04−0.07 μmと0.1−0.3 μmの、2種類のサイズ範囲での微粒子を生じる。

チェルノブイリでの森林火災実験一カ所と草地火災二カ所の近くでのストロンチウム90、セシウム137、プルトニウム238とプルトニウム239+240の大気浮遊物放射能レベルは、 空間線量より何桁も大きいというのがわかっている。大気輸送モデルからの推定では、森林火災による放射性物質の大気への放出の割合は小さかった。

草地火災で大気中に放出されたのは、草地内の放射性物質の1%以下だった。放出された放射性物質はほとんどが微粒子となっており、消防士の吸入線量を増やす。この微粒子の主な放射性物質はプルトニウムだった。


チェルノブイリ(緑)とBanivka村(青)のモニタリング局でのCs137大気中濃度のグラフでは、毎年森林火災が最も激しい初春から秋の終わりにかけて何度か増加が見られる。1997年から2003年の空間線量は、両局で比較的安定していた。 http://t.co/3Kw3h8KA8x


森林火災から発生する微粒子は、大火事だと何百kmも何千kmも運ばれる可能性がある。煙のプルームの拡散は、燃えている植生の種類、火事の強度、燃えている地域と期間、火炎の高さと気象状況に依存する。
                                   
このサテライト画像は、2006年4月6日のウクライナと近隣諸国での火事と煙の空間的分布を示しているが、キエフより南の地域での火災からの煙が、北に100kmほど流れている。 http://t.co/IyGeL9PNS9
 

NOAAのAVHRRサテライト画像(左の小さな画像)では、2003年5月8日に、チェルノブイリ立入禁止区域での春の火事からの煙のプルームが、人口270万人のキエフまで到達したのがわかる。 http://t.co/pu3DgLz3Bj

過去20年間での、下層植生と枯れ落ちた木の蓄積は、樹冠火の可能性を増加させた。大きく激しい樹冠火は、浮力が強い煙のプルームを生じる事が多く、自由対流圏まで到達して長距離輸送されるのである。

チェ ルノブイリの森林火災の煙のプルームの長距離輸送は、サテライトだけでなく、スエーデンの地上のモニタリング局でも測定されている。1972年から 1985年のセシウム137月間降下量は、成層圏の核実験フォールアウトのために5月がピークであったが、1987年から2000年の間は、セシウム 137月間降下量は4月と10月に増加した。これは、チェルノブイリ立入禁止区域内の森林火災が最も激しい時期と合致していた。チェルノブイリのミネラル ダストの再浮遊もまた、セシウム137月間降下量の増加に寄与したかもしれない。

この論文の残りは、火災察知の改善と、リアルタイムの煙と放射性物質拡散予報システムの発達と実行についてであるが、時間の関係で省略する。

0 件のコメント:

コメントを投稿