2012年9月3日月曜日

細野豪志環境相の「全ゲノム解析」発表についてのヤブロコフ博士の反応

NHK Worldのサイトからたったの2日で削除されてしまった、細野豪志環境相の「全ゲノム解析」発表の英文記事では、「全ゲノム解析」に該当する”whole genomic analysis” と言う言葉は出てきませんでした。

こちらは2012年8月31日の日本時間午前10時45分に掲載された、その記事のスクリーン・ショットです。


NHKの該当日本語記事を読むと、こちらでも「全ゲノム解析」という言葉は使われず、「遺伝子への影響の調査」となっています。

2012年8月31日午前6時45分掲載
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120831/k10014669541000.html


しかし、NHK日本語記事より前の、2012年8月31日午前0時35分に掲載された産経ニュースの記事では、見出しに「全ゲノム解析」と言う言葉が出てきます。見出しに出すと言うことは、細野氏はその言葉を使ったのだと思えます。

NHKニュース記事の動画によると、細野氏は、「福島の皆さんの健康と言うのは、まあ、5年や10年ではなくてですね、半世紀以上にわたってずっとこれは我々が見守っていかなければならない事ですので、遺伝子レベルでしっかりと把握をしていくと言うことが将来に備えることになると思うのです。」と述べています。この発言の前の発言内容は、一体どういったものだったのでしょうか。また、「将来」の何に「備える」のでしょうか?

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120831/dst12083100360000-n1.htm



  
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放射能被ばくの指標となるのは染色体異常の検査であり、「全ゲノム解析」ではありません。

放射線被曝者医療国際協力推進協議会『原爆放射線の人体影響1992要約版』http://www.hicare.jp/13/hi01.html の中の、染色体異常の章より抜粋します。 http://www.hicare.jp/13/hi01-07.pdf

「骨髄の染色体異常は各種造血系疾患(特に白血病)の発生を経時的に追跡する上で重要な指標となる。」

原爆の人体影響から、染色体異常は被ばく線量と相関し、被ばくにおいての重要な指標であると分かっているのです。なのに、原発事故後1年半になろうとしているにも関わらず、染色体異常の検査をするどころか、「全ゲノム解析」をすると言うのです。

しかし、この記事にあるように、「全ゲノム解析」では、原発事故の被曝による遺伝子への影響は調べられません。
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20120831/p1?utm_source=dlvr.it&utm_medium=twitter

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偶然なのですが、先日、ロシアのアレクセイ・ヤブロコフ博士より、「染色体異常の検査は行われているのか?」と言う問い合わせを受けました。ヤブロコフ博士は、ニューヨーク科学アカデミーによる”Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment”(「チェルノブイリ:大惨事が人々と環境に及ぼした影響」) の著者の一人で、生物学博士であり、生態学研究者です。1986年のチェルノブイリ事故当時、ゴルバチョフ書記長のアドバイザーを務めていました。ボリス・エリツィン政権でロシア連邦安全保障会議の環境安全委員会の委員長を務めました。ロシアのGreenpeace設立者でもあります。

「全ゲノム解析」のニュースをお伝えすると、このようなお返事を頂きました。

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Dr. Alexey Yablokov

It's really a pity that nobody is conducting studies on chromosomal aberrations in Japan.  I can hardly believe it.  Chromosomal aberrations are one of the objective indexes of radiation exposure.

Genetic studies for chromosomal aberrations were started several months after the Chernobyl accident by researchers at the Institute of General Genetics of USSR Academy of Science in Moscow.  All liquidators were covered at the initial study.  Several months later, multiple genetic institutes from Minsk and Kiev joined, covering the evacuees and later thousands of inhabitants in all contaminated territories.  Hundreds of scientific papers have been published as a result of these genetic studies.


日本で染色体異常の検査が行われていないとは、本当に残念な事です。信じ難い事です。
染色体異常と言うのは、被ばくの客観的指標のひとつなのです。

チェルノブイリ事故の数ヵ月後に、染色体異常を調べるための遺伝学研究が、モスクワのソビエト連邦科学アカデミーの一般遺伝学研究所の研究者達によって始まりました。一番最初に行われた研究は、清掃作業員全てが対象でした。数ヵ月後に、ミンスクとキエフの複数の遺伝学研究所も参加し、まずは避難した住民達が対象となり、そして後には全ての汚染地域に居住する何千人と言う住民が対象となりました。こういった遺伝学研究の成果として、今までに何百と言う科学研究論文が発表されてきています。

アレクセイ・ヤブロコフ



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「全ゲノム解析」と言う言葉で、世界は騙されていません。被ばくした子供達を「全ゲノム解析」と言う名目の実験に使うのでなく、速やかに汚染地から避難させるべきです。そして、推定被ばく量を理論的な計算のみで決めるのではなく、被ばくによって体が実際に受けた影響を、ベースラインとしての血液検査、甲状腺エコー検査や心電図、放射性物質の尿検査、ホール・ボディー・カウンターによる内部被ばく検査、そして原爆の影響から被ばく線量に相関すると分かっている染色体異常の検査や、チェルノブイリ事故の影響により被ばく線量に相関すると分かっている目の水晶体混濁の検査などによって判断し、モニターし続けるべきです。(ヤブロコフ博士は次のような検査も提案されています。歯のエナメル質のEPR線量測定法--Electron Paramagnetic Resonanceまたは電子スピン共鳴。
チェルノブイリによってロシアで一番汚染がひどかったBryanskで行われている頬粘膜上皮細胞の変化の追跡調査。)

後々に「癌の発生率はこれだけだった。」と発表するための、単なる疫学調査としての追跡調査でなく、被ばくを強要されてしまった子供達が少しでも快適に幸せに過ごせるように、万が一、何らかの発症があればできるだけ早く対処できるように、そういった思いやりのあるモニタリングをしてあげて下さい。子供は国の宝です。子供を大切にしないと、国自体が成り立たなくなると言う事に、いつになったら気づくのでしょうか。

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